[題詞]難波高津宮禦宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇後思天皇禦作歌四首[原文]君之行 氣長成奴 山多都祢 迎加将行 <待尓>可将待
[訓読]君が行き日長くなりぬ山尋ね迎へか行かむ待ちにか待たむ
[仮名],きみがゆき,けながくなりぬ,やまたづね,むかへかゆかむ,まちにかまたむ
[左注]右一首歌山上憶良臣類聚歌林載焉
[校異]尓待
待尓 [西(訂正)][紀][金][溫][KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇後,律令,情詩,閨房詩,大阪,伝承,仮託,戀情,女歌
86[題詞](相聞 / 難波高津宮禦宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇後思天皇禦作歌四首)[原文]如此許 戀乍不有者 高山之 磐根四巻手 死奈麻死物<呼>
[訓読]かくばかり戀ひつつあらずは高山の磐根しまきて死なましものを
[仮名],かくばかり,こひつつあらずは,たかやまの,いはねしまきて,しなましものを
[左注]
[校異]乎
呼 [金][KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇後,律令,情詩,閨房詩,大阪,伝承,仮託,戀情,女歌
87[題詞](相聞 / 難波高津宮禦宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇後思天皇禦作歌四首)[原文]在管裳 君乎者将待 打靡 吾黒髪尓 霜乃置萬代日
[訓読]ありつつも君をば待たむうち靡く我が黒髪に霜の置くまでに
[仮名],ありつつも,きみをばまたむ,うちなびく,わがくろかみに,しものおくまでに
[左注]
[校異]
[KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇後,律令,情詩,閨房詩,大阪,伝承,仮託,戀情,女歌
88[題詞](相聞 / 難波高津宮禦宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇後思天皇禦作歌四首)[原文]秋田之 穂上尓霧相 朝霞 何時邊乃方二 我戀将息
[訓読]秋の田の穂の上に霧らふ朝霞いつへの方に我が戀やまむ
[仮名],あきのたの,ほのへにきらふ,あさかすみ,いつへのかたに,あがこひやまむ
[左注]
[校異]
[KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇後,律令,情詩,閨房詩,大阪,伝承,仮託,戀情,女歌
89[題詞](相聞 / 難波高津宮禦宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇後思天皇禦作歌四首)或本歌曰[原文]居明而 君乎者将待 奴婆珠<能> 吾黒髪尓 霜者零騰文
[訓読]居明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも
[仮名],ゐあかして,きみをばまたむ,ぬばたまの,わがくろかみに,しもはふるとも
[左注]右一首古歌集中出
[校異]乃
能 [金][紀][KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇後,律令,情詩,閨房詩,或本歌,古歌集,大阪,伝承,仮託,戀情,女歌,枕詞
90[題詞]古事記曰 軽太子奸軽太郎女 故其太子流於伊豫湯也 此時衣通王 不堪戀<慕>而追徃時歌曰[原文]君之行 氣長久成奴 山多豆乃 迎乎将徃 待尓者不待
[訓読]君が行き日長くなりぬ山たづの迎へを行かむ待つには待たじ
[仮名],きみがゆき,けながくなりぬ,やまたづの,むかへをゆかむ,まつにはまたじ
[左注]右一首歌古事記與類聚<歌林>所説不同歌主亦異焉 因檢日本紀曰難波高津宮禦宇大鷦鷯天皇廿二年春正月天皇語皇後納八田皇女将為妃 時皇後不聴 爰天皇歌以乞於皇後雲々 卅年秋九月乙卯朔乙醜皇後遊行紀伊國到熊野岬 取其處之禦綱葉而還 於是天皇伺皇後不在而娶八田皇女納於宮中時皇後 到難波濟 聞天皇合八田皇女大恨之雲々 亦曰 遠飛鳥宮禦宇雄朝嬬稚子宿祢天皇廿三年春<三>月甲午朔庚子 木梨軽皇子為太子 容姿佳麗見者自感 同母妹軽太娘皇女亦艶妙也雲々 遂竊通乃悒懐少息 廿四年夏六月禦羮汁凝以作氷 天皇異之蔔其所由 蔔者曰 有内亂 蓋親々相奸乎雲々 仍移太娘皇女於伊<豫>者 今案二代二時不見此歌也
[校異]
[KW],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇後,律令,情詩,閨房詩,古事記,異伝,玉台新詠,軽皇女,大阪,伝承,仮託,戀情,女歌,植物,枕詞,伝誦
91[題詞]近江大津宮禦宇天皇代 [天命開別天皇 謚曰天智天皇] / 天皇賜鏡王女禦歌一首[原文]妹之家毛 継而見麻思乎 山跡有 大嶋嶺尓 家母有猿尾 [一雲 妹之當継而毛見武尓] [一雲 家居麻之乎]
[訓読]妹が家も継ぎて見ましを大和なる大島の嶺に家もあらましを [一雲 妹があたり継ぎても見むに] [一雲 家居らましを]
[仮名],いもがいへも,つぎてみましを,やまとなる,おほしまのねに,いへもあらましを,[いもがあたり,つぎてもみむに][いへをらましを]
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:天智天皇,鏡王女,見る,國見,異伝,贈答,歌垣,奈良,地名
92[題詞]鏡王女奉和禦歌一首[原文]秋山之 樹下隠 逝水乃 吾許曽益目 禦念従者
[訓読]秋山の木の下隠り行く水の我れこそ益さめ禦思ひよりは
[仮名],あきやまの,このしたがくり,ゆくみづの,われこそまさめ,みおもひよりは
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:鏡王女,和,天智,贈答,歌垣,奈良,女歌
93[題詞]内大臣藤原卿娉鏡王女時鏡王女贈内大臣歌一首[原文]玉匣 覆乎安美 開而行者 君名者雖有 吾名之惜<裳>
[訓読]玉櫛笥覆ふを安み明けていなば君が名はあれど吾が名し惜しも
[仮名],たまくしげ,おほふをやすみ,あけていなば,きみがなはあれど,わがなしをしも
[左注]
[校異]毛
裳 [元][金][紀][KW],相聞,戀愛,作者:鏡王女,藤原鎌足,娉,名前,贈答,歌垣,比喩
94[題詞]内大臣藤原卿報贈鏡王女歌一首[原文]玉匣 将見圓山乃 狹名葛 佐不寐者遂尓 有勝麻之<自> [玉匣 三室戸山乃]
[訓読]玉櫛笥みむろの山のさな葛さ寝ずはつひに有りかつましじ [玉くしげ三室戸山の]
[仮名],たまくしげ,みむろのやまの,さなかづら,さねずはつひに,ありかつましじ,[たまくしげ,みむろとやまの]
[左注]
[校異]目
自 [元][類][KW],相聞,戀愛,作者:藤原鎌足,鏡王女,贈答,異伝,歌垣,枕詞,地名,植物,序詞
95[題詞]内大臣藤原卿娶釆女安見<兒>時作歌一首[原文]吾者毛也 安見兒得有 皆人乃 得難尓為雲 安見兒衣多利
[訓読]我れはもや安見児得たり皆人の得かてにすとふ安見児得たり
[仮名],われはもや,やすみこえたり,みなひとの,えかてにすとふ,やすみこえたり
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:藤原鎌足,安見児,采女,娶,宴席,歌謡,即興的,口誦
96[題詞]久米禅師娉石川郎女時歌五首[原文]水薦苅 信濃乃真弓 吾引者 宇真人<佐>備而 不欲常将言可聞 [禅師]
[訓読]み薦刈る信濃の真弓我が引かば貴人さびていなと言はむかも [禅師]
[仮名],みこもかる,しなぬのまゆみ,わがひかば,うまひとさびて,いなといはむかも
[左注]
[校異]作
佐 [元][金][類][KW],相聞,作者:久米禅師,石川郎女,歌垣,求婚,掛け合い歌,枕詞,比喩
97[題詞](久米禅師娉石川郎女時歌五首)[原文]三薦苅 信濃乃真弓 不引為而 強<佐>留行事乎 知跡言莫君二 [郎女]
[訓読]み薦刈る信濃の真弓引かずして強ひさるわざを知ると言はなくに [郎女]
[仮名],みこもかる,しなぬのまゆみ,ひかずして,しひさるわざを,しるといはなくに
[左注]
[校異]作
佐 [元][金][類][KW],相聞,作者:石川郎女,久米禅師,歌垣,拒否,掛け合い歌,比喩,枕詞
98[題詞](久米禅師娉石川郎女時歌五首)[原文]梓弓 引者随意 依目友 後心乎 知勝奴鴨 [郎女]
[訓読]梓弓引かばまにまに寄らめども後の心を知りかてぬかも [郎女]
[仮名],あづさゆみ,ひかばまにまに,よらめども,のちのこころを,しりかてぬかも
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:石川郎女,久米禅師,歌垣,掛け合い歌,比喩
99[題詞](久米禅師娉石川郎女時歌五首)[原文]梓弓 都良絃取波氣 引人者 後心乎 知人曽引 [禅師]
[訓読]梓弓弦緒取りはけ引く人は後の心を知る人ぞ引く [禅師]
[仮名],あづさゆみ,つらをとりはけ,ひくひとは,のちのこころを,しるひとぞひく
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:久米禅師,石川郎女,歌垣,掛け合い歌,比喩
100[題詞](久米禅師娉石川郎女時歌五首)[原文]東人之 荷向篋乃 荷之緒尓毛 妹情尓 乗尓家留香問 [禅師]
[訓読]東人の荷前の箱の荷の緒にも妹は心に乗りにけるかも [禅師]
[仮名],あづまひとの,のさきのはこの,にのをにも,いもはこころに,のりにけるかも
[左注]
[校異]問 [元][類] 聞
[KW],相聞,作者:久米禅師,石川郎女,歌垣,掛け合い歌,序詞
101[題詞]大伴宿祢娉巨勢郎女時歌一首 [大伴宿祢諱曰安麻呂也難波朝右大臣大紫大伴長徳卿之第六子平城朝任大納言兼大将軍薨也][原文]玉葛 實不成樹尓波 千磐破 神曽著常雲 不成樹別尓
[訓読]玉葛実ならぬ木にはちはやぶる神ぞつくといふならぬ木ごとに
[仮名],たまかづら,みならぬきには,ちはやぶる,かみぞつくといふ,ならぬきごとに
[左注]
[校異]磐 [元][類] 盤
[KW],相聞,作者:大伴安麻呂,巨勢郎女,掛け合い歌,植物,比喩
102[題詞]巨勢郎女報贈歌一首 [即近江朝大納言巨勢人卿之女也][原文]玉葛 花耳開而 不成有者 誰戀尓有目 吾孤悲念乎
[訓読]玉葛花のみ咲きてならずあるは誰が戀にあらめ我れ戀ひ思ふを
[仮名],たまかづら,はなのみさきて,ならずあるは,たがこひにあらめ,あはこひもふを
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:巨勢郎女,大伴安麻呂,掛け合い歌,植物,比喩
103[題詞]明日香清禦原宮禦宇天皇代 [天渟<中>原瀛真人天皇謚曰天武天皇] / 天皇賜藤原夫人禦歌一首[原文]吾裡尓 大雪落有 大原乃 古尓之郷尓 落巻者後
[訓読]我が裡に大雪降れり大原の古りにし裡に降らまくは後
[仮名],わがさとに,おほゆきふれり,おほはらの,ふりにしさとに,ふらまくはのち
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:天武天皇,藤原夫人,贈答,掛け合い歌,飛鳥,地名
104[題詞]藤原夫人奉和歌一首[原文]吾岡之 於可美尓言而 令落 雪之摧之 彼所尓塵家武
[訓読]我が岡のおかみに言ひて降らしめし雪のくだけしそこに散りけむ
[仮名],わがをかの,おかみにいひて,ふらしめし,ゆきのくだけし,そこにちりけむ
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:藤原夫人,天武天皇,贈答,掛け合い歌,飛鳥,地名
105[題詞]藤原宮禦宇天皇<代> [天皇謚曰持統天皇元年丁亥十一年譲位軽太子尊号曰太上天皇也] / 大津皇子竊下於伊勢神宮上來時大伯皇女禦作歌二首[原文]吾勢I乎 倭邊遺登 佐夜深而 鷄鳴露尓 吾立所霑之
[訓読]我が背子を大和へ遣るとさ夜更けて暁露に我れ立ち濡れし
[仮名],わがせこを,やまとへやると,さよふけて,あかときつゆに,われたちぬれし
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:大伯皇女,大津皇子,伊勢神宮,悲劇,歌語り,斎宮,見送り,羈旅,三重,地名
106[題詞](大津皇子竊下於伊勢神宮上來時大伯皇女禦作歌二首)[原文]二人行杼 去過難寸 秋山乎 如何君之 獨越武
[訓読]ふたり行けど行き過ぎかたき秋山をいかにか君がひとり越ゆらむ
[仮名],ふたりゆけど,ゆきすぎかたき,あきやまを,いかにかきみが,ひとりこゆらむ
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:大伯皇女,大津皇子,伊勢神宮,悲劇,歌語り,斎宮,見送り,羈旅,三重,地名
107[題詞]大津皇子贈石川郎女禦歌一首[原文]足日木乃 山之四付二 妹待跡 吾立所<沾> 山之四附二
[訓読]あしひきの山のしづくに妹待つと我れ立ち濡れぬ山のしづくに
[仮名],あしひきの,やまのしづくに,いもまつと,われたちぬれぬ,やまのしづくに
[左注]
[校異]沽
沾 [金][細][京][KW],相聞,作者:大津皇子,石川郎女,歌垣,掛け合い歌,歌語り,枕詞
108[題詞]石川郎女奉和歌一首[原文]吾乎待跡 君之<沾>計武 足日木能 山之四附二 成益物乎
[訓読]我を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくにならましものを
[仮名],あをまつと,きみがぬれけむ,あしひきの,やまのしづくに,ならましものを
[左注]
[校異]沽
沾 [金][細][京][KW],相聞,作者:石川郎女,大津皇子,歌垣,掛け合い歌,歌語り,枕詞
109[題詞]大津皇子竊婚石川女郎時津守連通占露其事皇子禦作歌一首 <[未詳]>[原文]大船之 津守之占尓 将告登波 益為尓知而 我二人宿之
[訓読]大船の津守が占に告らむとはまさしに知りて我がふたり寝し
[仮名],おほぶねの,つもりがうらに,のらむとは,まさしにしりて,わがふたりねし
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:大津皇子,石川郎女,津守通,占い,歌語り,枕詞
110[題詞]日並皇子尊贈賜石川女郎禦歌一首 [女郎字曰大名兒也][原文]大名兒 彼方野邊尓 苅草乃 束之間毛 吾忘目八
[訓読]大名児を彼方野辺に刈る草の束の間も我れ忘れめや
[仮名],おほなこを,をちかたのへに,かるかやの,つかのあひだも,われわすれめや
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:日並皇子:草壁皇子,石川郎女,大津皇子,大名兒,歌語り,序詞,植物
111[題詞]幸于吉野宮時弓削皇子贈與額田王歌一首[原文]古尓 戀流鳥鴨 弓絃葉乃 三井能上従 <鳴><濟>遊久
[訓読]いにしへに戀ふる鳥かも弓絃葉の禦井の上より鳴き渡り行く
[仮名],いにしへに,こふるとりかも,ゆづるはの,みゐのうへより,なきわたりゆく
[左注]
[校異]<>
鳴 [西(右書)][元][金] / 渡濟 [元][金][KW],相聞,作者:弓削皇子,額田王,懐古,動物,贈答,吉野,行幸,動物,植物,持統
112[題詞]額田王奉和歌一首 [従倭京進入][原文]古尓 戀良武鳥者 霍公鳥 蓋哉鳴之 吾<念>流<碁>騰
[訓読]いにしへに戀ふらむ鳥は霍公鳥けだしや鳴きし我が念へるごと
[仮名],いにしへに,こふらむとりは,ほととぎす,けだしやなきし,あがもへるごと
[左注]
[校異]戀
念 [元][金][類][紀] / 其碁 [紀][KW],相聞,作者:額田王,弓削皇子,贈答,懐古,吉野,行幸,動物,持統
113[題詞]従吉野折取蘿生松柯遣時額田王奉入歌一首[原文]三吉野乃 玉松之枝者 波思吉香聞 君之禦言乎 持而加欲波久
[訓読]み吉野の玉松が枝ははしきかも君が禦言を持ちて通はく
[仮名],みよしのの,たままつがえは,はしきかも,きみがみことを,もちてかよはく
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:額田王,弓削皇子,吉野,行幸,地名,植物,持統
114[題詞]但馬皇女在高市皇子宮時思穂積皇子禦作歌一首[原文]秋田之 穂向乃所縁 異所縁 君尓因奈名 事痛有登母
[訓読]秋の田の穂向きの寄れる片寄りに君に寄りなな言痛くありとも
[仮名],あきのたの,ほむきのよれる,かたよりに,きみによりなな,こちたくありとも
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:但馬皇女,穂積皇子,戀愛,歌語り,高市皇子,植物
115[題詞]勅穂積皇子遣近江志賀山寺時但馬皇女禦作歌一首[原文]遺居<而> 戀管不有者 追及武 道之阿廻尓 標結吾勢
[訓読]後れ居て戀ひつつあらずは追ひ及かむ道の隈廻に標結へ我が背
[仮名],おくれゐて,こひつつあらずは,おひしかむ,みちのくまみに,しめゆへわがせ
[左注]
[校異]與
而 [元][類][紀][KW],相聞,作者:但馬皇女,穂積皇子,戀愛,歌語り
116[題詞]但馬皇女在高市皇子宮時竊接穂積皇子事既形而禦作<歌>一首[原文]人事乎 繁美許知痛美 己世尓 未渡 朝川渡
[訓読]人言を繁み言痛みおのが世にいまだ渡らぬ朝川渡る
[仮名],ひとごとを,しげみこちたみ,おのがよに,いまだわたらぬ,あさかはわたる
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:但馬皇女,穂積皇子,戀愛,密通,歌語り,川渡り,うわさ,人言
117[題詞]舎人皇子禦歌一首[原文]大夫哉 片戀将為跡 嘆友 鬼乃益蔔雄 尚戀二家裡
[訓読]ますらをや片戀せむと嘆けども醜のますらをなほ戀ひにけり
[仮名],ますらをや,かたこひせむと,なげけども,しこのますらを,なほこひにけり
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:舎人皇子,大夫,戀愛
118[題詞]舎人娘子奉和歌一首[原文]<嘆>管 大夫之 戀禮許曽 吾髪結乃 漬而奴禮計禮
[訓読]嘆きつつますらをのこの戀ふれこそ我が髪結ひの漬ちてぬれけれ
[仮名],なげきつつ,ますらをのこの,こふれこそ,わがかみゆひの,ひちてぬれけれ
[左注]
[校異]歎
嘆 [元][金] / 髪結 [元] 結髪[KW],相聞,作者:舎人娘子,大夫,戀愛
119[題詞]弓削皇子思紀皇女禦歌四首[原文]芳野河 逝瀬之早見 須臾毛 不通事無 有巨勢<濃>香問
[訓読]吉野川行く瀬の早みしましくも澱むことなくありこせぬかも
[仮名],よしのかは,ゆくせのはやみ,しましくも,よどむことなく,ありこせぬかも
[左注]
[校異]流
濃 [西(右書)][元][金][紀] / 問 [類][古][紀] 聞[KW],相聞,作者:弓削皇子,紀皇女,戀愛,戀の停滞,地名
120[題詞](弓削皇子思紀皇女禦歌四首)[原文]吾妹兒尓 戀乍不有者 秋芽之 咲而散去流 花尓有猿尾
[訓読]我妹子に戀ひつつあらずは秋萩の咲きて散りぬる花にあらましを
[仮名],わぎもこに,こひつつあらずは,あきはぎの,さきてちりぬる,はなにあらましを
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:弓削皇子,紀皇女,戀歌,磐姫皇後歌,反実仮想,散る花,植物
121[題詞](弓削皇子思紀皇女禦歌四首)[原文]暮去者 塩満來奈武 住吉乃 淺鹿乃浦尓 玉藻苅手名
[訓読]夕さらば潮満ち來なむ住吉の淺香の浦に玉藻刈りてな
[仮名],ゆふさらば,しほみちきなむ,すみのえの,あさかのうらに,たまもかりてな
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:弓削皇子,紀皇女,戀歌,玉藻刈り,比喩,地名,植物
122[題詞](弓削皇子思紀皇女禦歌四首)[原文]大船之 泊流登麻裡能 絶多日二 物念痩奴 人能兒故尓
[訓読]大船の泊つる泊りのたゆたひに物思ひ痩せぬ人の子故に
[仮名],おほぶねの,はつるとまりの,たゆたひに,ものもひやせぬ,ひとのこゆゑに
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:弓削皇子,紀皇女,戀歌
123[題詞]三方沙彌娶園臣生羽之女未經幾時臥病作歌三首[原文]多氣婆奴禮 多香根者長寸 妹之髪 此來不見尓 掻入津良武香 [三方沙彌]
[訓読]たけばぬれたかねば長き妹が髪このころ見ぬに掻き入れつらむか [三方沙彌]
[仮名],たけばぬれ,たかねばながき,いもがかみ,このころみぬに,かきいれつらむか
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:三方沙彌,園臣生羽女,戀歌,心配
124[題詞](三方沙彌娶園臣生羽之女未經幾時臥病作歌三首)[原文]人皆者 今波長跡 多計登雖言 君之見師髪 亂有等母 [娘子]
[訓読]人皆は今は長しとたけと言へど君が見し髪亂れたりとも [娘子]
[仮名],ひとみなは,いまはながしと,たけといへど,きみがみしかみ,みだれたりとも
[左注]
[校異]皆者 [元][紀] 者皆
[KW],相聞,作者:園生羽女,三方沙彌,戀歌,なぐさめ,安心
125[題詞](三方沙彌娶園臣生羽之女未經幾時臥病作歌三首)[原文]橘之 蔭履路乃 八衢尓 物乎曽念 妹尓不相而 [三方沙彌]
[訓読]橘の蔭踏む道の八衢に物をぞ思ふ妹に逢はずして [三方沙彌]
[仮名],たちばなの,かげふむみちの,やちまたに,ものをぞおもふ,いもにあはずして
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:三方沙彌,物思い,植物
126[題詞]石川女郎贈大伴宿祢田主歌一首 [即佐保大納言大伴卿<之>第二子 母曰巨勢朝臣也][原文]遊士跡 吾者聞流乎 屋戸不借 吾乎還利 於曽能風流士
[訓読]風流士と我れは聞けるをやど貸さず我れを帰せりおその風流士
[仮名],みやびをと,われはきけるを,やどかさず,われをかへせり,おそのみやびを
[左注]大伴田主字曰仲郎 容姿佳艶風流秀絶 見人聞者靡不歎息也 時有石川女郎 自成雙栖之感恒悲獨守之難 意欲寄書未逢良信 爰作方便而似賎嫗 己提堝子而到寝側 哽音J足叩戸諮曰 東隣貧女将取火來矣 於是仲郎 暗裏非識冒隠之形 慮外不堪拘接之計 任念取火就跡歸去也 明後女郎 既恥自媒之可愧 復恨心契之弗果 因作斯歌以贈謔<戯>焉
[校異]
[KW],相聞,作者:石川女郎,大伴田主,贈答,掛け合い,歌語り
127[題詞]大伴宿祢田主報贈<歌>一首[原文]遊士尓 吾者有家裡 屋戸不借 令還吾曽 風流士者有
[訓読]風流士に我れはありけりやど貸さず帰しし我れぞ風流士にはある
[仮名],みやびをに,われはありけり,やどかさず,かへししわれぞ,みやびをにはある
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:大伴田主,石川女郎,贈答,掛け合い,歌語り
128[題詞]同石川女郎更贈大伴田主中郎歌一首[原文]吾聞之 耳尓好似 葦若<末>乃 足痛吾勢 勤多扶倍思
[訓読]我が聞きし耳によく似る葦の末の足ひく我が背つとめ給ぶべし
[仮名],わがききし,みみによくにる,あしのうれの,あしひくわがせ,つとめたぶべし
[左注]右依中郎足疾贈此歌問訊也
[校異]未
末 [萬葉考][KW],相聞,作者:石川女郎,大伴田主,贈答,掛け合い,歌語り,植物
129[題詞]大<津>皇子宮侍石川女郎贈大伴宿祢宿奈麻呂歌一首 [女郎字曰山田郎女也宿奈麻呂宿祢者大納言兼大将軍卿之第三子也][原文]古之 嫗尓為而也 如此許 戀尓将沈 如手童兒 [戀乎<大>尓忍金手武多和良波乃如]
[訓読]古りにし嫗にしてやかくばかり戀に沈まむ手童のごと [戀をだに忍びかねてむ手童のごと]
[仮名],ふりにし,おみなにしてや,かくばかり,こひにしづまむ,たわらはのごと,[こひをだに,しのびかねてむ,たわらはのごと]
[左注]
[校異]伴
津 [元][古][紀] / 大 [紀][溫][矢] 太[KW],相聞,作者:石川女郎,大伴宿奈麻呂,大津皇子,山田郎女,戀歌,戀情
130[題詞]長皇子與皇弟禦歌一首[原文]丹生乃河 瀬者不渡而 由久遊久登 戀痛吾弟 乞通來祢
[訓読]丹生の川瀬は渡らずてゆくゆくと戀痛し我が背いで通ひ來ね
[仮名],にふのかは,せはわたらずて,ゆくゆくと,こひたしわがせ,いでかよひこね
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:長皇子,弓削皇子,弟,戀情,川渡り,同性,戀歌,地名,贈答
131[題詞]柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上來時歌二首[并短歌][原文]石見乃海 角乃浦廻乎 浦無等 人社見良目 滷無等 [一雲 礒無登] 人社見良目 能咲八師 浦者無友 縦畫屋師 滷者 [一雲 礒者] 無鞆 鯨魚取 海邊乎指而 和多豆乃 荒礒乃上尓 香青生 玉藻息津藻 朝羽振 風社依米 夕羽振流 浪社來縁 浪之共 彼縁此依 玉藻成 依宿之妹乎 [一雲 波之伎餘思 妹之手本乎] 露霜乃 置而之來者 此道乃 八十隈毎 萬段 顧為騰 彌遠尓 裡者放奴 益高尓 山毛越來奴 夏草之 念思奈要而 志<怒>布良武 妹之門将見 靡此山
[訓読]石見の海 角の浦廻を 浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと [一雲 礒なしと] 人こそ見らめ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟は [一雲 礒は] なくとも 鯨魚取り 海辺を指して 柔田津の 荒礒の上に か青なる 玉藻沖つ藻 朝羽振る 風こそ寄せめ 夕羽振る 波こそ來寄れ 波のむた か寄りかく寄り 玉藻なす 寄り寝し妹を [一雲 はしきよし 妹が手本を] 露霜の 置きてし來れば この道の 八十隈ごとに 萬たび かへり見すれど いや遠に 裡は離りぬ いや高に 山も越え來ぬ 夏草の 思ひ萎へて 偲ふらむ 妹が門見む 靡けこの山
[仮名],いはみのうみ,つののうらみを,うらなしと,ひとこそみらめ,かたなしと,[いそなしと],ひとこそみらめ,よしゑやし,うらはなくとも,よしゑやし,かたは,[いそは],なくとも,いさなとり,うみへをさして,にきたづの,ありそのうへに,かあをなる,たまもおきつも,あさはふる,かぜこそよせめ,ゆふはふる,なみこそきよれ,なみのむた,かよりかくより,たまもなす,よりねしいもを,[はしきよし,いもがたもとを],つゆしもの,おきてしくれば,このみちの,やそくまごとに,よろづたび,かへりみすれど,いやとほに,さとはさかりぬ,いやたかに,やまもこえきぬ,なつくさの,おもひしなえて,しのふらむ,いもがかどみむ,なびけこのやま
[左注]
[校異]奴
怒 [元][紀][溫][KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,枕詞,悲別
132[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上來時歌二首[并短歌])反歌二首[原文]石見乃也 高角山之 木際従 我振袖乎 妹見都良武香
[訓読]石見のや高角山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか
[仮名],いはみのや,たかつのやまの,このまより,わがふるそでを,いもみつらむか
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,悲別
133[題詞]((柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上來時歌二首[并短歌])反歌二首)[原文]小竹之葉者 三山毛清尓 亂友 吾者妹思 別來禮婆
[訓読]笹の葉はみ山もさやにさやげども我れは妹思ふ別れ來ぬれば
[仮名],ささのはは,みやまもさやに,さやげども,われはいもおもふ,わかれきぬれば
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,悲別
134[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上來時歌二首[并短歌])或本反歌曰[原文]石見尓有 高角山乃 木間従文 吾袂振乎 妹見監鴨
[訓読]石見なる高角山の木の間ゆも我が袖振るを妹見けむかも
[仮名],いはみなる,たかつのやまの,このまゆも,わがそでふるを,いもみけむかも
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,異伝,推敲,島根,地名,悲別
135[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上來時歌二首[并短歌])[原文]角<障>經 石見之海乃 言佐敝久 辛乃埼有 伊久裡尓曽 深海松生流 荒礒尓曽 玉藻者生流 玉藻成 靡寐之兒乎 深海松乃 深目手思騰 左宿夜者 幾毛不有 延都多乃 別之來者 肝向 心乎痛 念乍 顧為騰 大舟之 渡乃山之 黃葉乃 散之亂尓 妹袖 清尓毛不見 嬬隠有 屋上乃 [一雲 室上山] 山乃 自雲間 渡相月乃 雖惜 隠比來者 天傳 入日刺奴禮 大夫跡 念有吾毛 敷妙乃 衣袖者 通而<沾>奴
[訓読]つのさはふ 石見の海の 言さへく 唐の崎なる 海石にぞ 深海松生ふる 荒礒にぞ 玉藻は生ふる 玉藻なす 靡き寝し子を 深海松の 深めて思へど さ寝し夜は 幾だもあらず 延ふ蔦の 別れし來れば 肝向ふ 心を痛み 思ひつつ かへり見すれど 大船の 渡の山の 黃葉の 散りの亂ひに 妹が袖 さやにも見えず 妻ごもる 屋上の [一雲 室上山] 山の 雲間より 渡らふ月の 惜しけども 隠らひ來れば 天伝ふ 入日さしぬれ 大夫と 思へる我れも 敷栲の 衣の袖は 通りて濡れぬ
[仮名],つのさはふ,いはみのうみの,ことさへく,からのさきなる,いくりにぞ,ふかみるおふる,ありそにぞ,たまもはおふる,たまもなす,なびきねしこを,ふかみるの,ふかめておもへど,さねしよは,いくだもあらず,はふつたの,わかれしくれば,きもむかふ,こころをいたみ,おもひつつ,かへりみすれど,おほぶねの,わたりのやまの,もみちばの,ちりのまがひに,いもがそで,さやにもみえず,つまごもる,やかみの,[むろかみやま],やまの,くもまより,わたらふつきの,をしけども,かくらひくれば,あまづたふ,いりひさしぬれ,ますらをと,おもへるわれも,しきたへの,ころものそでは,とほりてぬれぬ
[左注]
[校異]K
障 [元][金][紀] / 沽沾 [金][溫][京][KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,枕詞,悲別
136[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上來時歌二首[并短歌])反歌二首[原文]青駒之 足掻乎速 雲居曽 妹之當乎 過而來計類 [一雲 當者隠來計留]
[訓読]青駒が足掻きを速み雲居にぞ妹があたりを過ぎて來にける [一雲 あたりは隠り來にける]
[仮名],あをこまが,あがきをはやみ,くもゐにぞ,いもがあたりを,すぎてきにける,[あたりは,かくりきにける]
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,悲別
137[題詞]((柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上來時歌二首[并短歌])反歌二首)[原文]秋山尓 落黃葉 須臾者 勿散亂曽 妹之<當>将見 [一雲 知裡勿亂曽]
[訓読]秋山に落つる黃葉しましくはな散り亂ひそ妹があたり見む [一雲 散りな亂ひそ]
[仮名],あきやまに,おつるもみちば,しましくは,なちりまがひそ,いもがあたりみむ,[ちりなまがひそ]
[左注]
[校異]雷
當 [元][類][KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,植物,悲別
138[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上來時歌二首[并短歌])或本歌一首[并短歌][原文]石見之海 津乃浦乎無美 浦無跡 人社見良米 滷無跡 人社見良目 吉咲八師 浦者雖無 縦恵夜思 潟者雖無 勇魚取 海邊乎指而 柔田津乃 荒礒之上尓 蚊青生 玉藻息都藻 明來者 浪己曽來依 夕去者 風己曽來依 浪之共 彼依此依 玉藻成 靡吾宿之 敷妙之 妹之手本乎 露霜乃 置而之來者 此道之 八十隈毎 萬段 顧雖為 彌遠尓 裡放來奴 益高尓 山毛超來奴 早敷屋師 吾嬬乃兒我 夏草乃 思志萎而 将嘆 角裡将見 靡此山
[訓読]石見の海 津の浦をなみ 浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと 人こそ見らめ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟はなくとも 鯨魚取り 海辺を指して 柔田津の 荒礒の上に か青なる 玉藻沖つ藻 明け來れば 波こそ來寄れ 夕されば 風こそ來寄れ 波のむた か寄りかく寄り 玉藻なす 靡き我が寝し 敷栲の 妹が手本を 露霜の 置きてし來れば この道の 八十隈ごとに 萬たび かへり見すれど いや遠に 裡離り來ぬ いや高に 山も越え來ぬ はしきやし 我が妻の子が 夏草の 思ひ萎えて 嘆くらむ 角の裡見む 靡けこの山
[仮名],いはみのうみ,つのうらをなみ,うらなしと,ひとこそみらめ,かたなしと,ひとこそみらめ,よしゑやし,うらはなくとも,よしゑやし,かたはなくとも,いさなとり,うみべをさして,にきたつの,ありそのうへに,かあをなる,たまもおきつも,あけくれば,なみこそきよれ,ゆふされば,かぜこそきよれ,なみのむた,かよりかくより,たまもなす,なびきわがねし,しきたへの,いもがたもとを,つゆしもの,おきてしくれば,このみちの,やそくまごとに,よろづたび,かへりみすれど,いやとほに,さとさかりきぬ,いやたかに,やまもこえきぬ,はしきやし,わがつまのこが,なつくさの,おもひしなえて,なげくらむ,つののさとみむ,なびけこのやま
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,異伝,推敲,島根,地名,枕詞,悲別
139[題詞]((柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上來時歌二首[并短歌])或本歌一首[并短歌])反歌一首[原文]石見之海 打歌山乃 木際従 吾振袖乎 妹将見香
[訓読]石見の海打歌の山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか
[仮名],いはみのうみ,うつたのやまの,このまより,わがふるそでを,いもみつらむか
[左注]右歌躰雖同句々相替 因此重載
[校異]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,異伝,推敲,島根,地名,悲別
140[題詞]柿本朝臣人麻呂妻依羅娘子與人麻呂相別歌一首[原文]勿念跡 君者雖言 相時 何時跡知而加 吾不戀有牟
[訓読]な思ひと君は言へども逢はむ時いつと知りてか我が戀ひずあらむ
[仮名],なおもひと,きみはいへども,あはむとき,いつとしりてか,あがこひずあらむ
[左注]
[校異]
[KW],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,悲別
挽歌
141[題詞]後岡本宮禦宇天皇代 [天豊財重日足姫天皇譲位後即後岡本宮] / 有間皇子自傷結松枝歌二首[原文]磐白乃 濱松之枝乎 引結 真幸有者 亦還見武
[訓読]磐白の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまた帰り見む
[仮名],いはしろの,はままつがえを,ひきむすび,まさきくあらば,またかへりみむ
[左注](右件歌等雖不挽柩之時所作<準>擬歌意 故以載于挽歌類焉)
[校異]
[KW],挽歌,作者:有間皇子,結び松,自傷,歌語り,謀反,羈旅,鎮魂,和歌山,地名
142[題詞](有間皇子自傷結松枝歌二首)[原文]家有者 笥尓盛飯乎 草枕 旅尓之有者 椎之葉尓盛
[訓読]家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る
[仮名],いへにあれば,けにもるいひを,くさまくら,たびにしあれば,しひのはにもる
[左注](右件歌等雖不挽柩之時所作<準>擬歌意 故以載于挽歌類焉)
[校異]
[KW],挽歌,作者:有間皇子,手向け,羈旅,鎮魂,和歌山,地名
143[題詞]長忌寸意吉麻呂見結松哀咽歌二首[原文]磐代乃 <崖>之松枝 将結 人者反而 復将見鴨
[訓読]磐代の岸の松が枝結びけむ人は帰りてまた見けむかも
[仮名],いはしろの,きしのまつがえ,むすびけむ,ひとはかへりて,またみけむかも
[左注](右件歌等雖不挽柩之時所作<準>擬歌意 故以載于挽歌類焉)
[校異]岸
崖 [金][元][古][KW],挽歌,作者:長意吉麻呂,有間皇子,鎮魂,行幸,追悼,結び松,和歌山,地名,植物
144[題詞](長忌寸意吉麻呂見結松哀咽歌二首)[原文]磐代之 野中尓立有 結松 情毛不解 古所念
[訓読]磐代の野中に立てる結び松心も解けずいにしへ思ほゆ
[仮名],いはしろの,のなかにたてる,むすびまつ,こころもとけず,いにしへおもほゆ
[左注](右件歌等雖不挽柩之時所作<準>擬歌意 故以載于挽歌類焉)
[校異]
[KW],挽歌,作者:長意吉麻呂,有間皇子,鎮魂,行幸,追悼,結び松,和歌山,地名,植物
145[題詞]山上臣憶良追和歌一首[原文]鳥翔成 有我欲比管 見良目杼母 人社不知 松者知良武
[訓読]鳥翔成あり通ひつつ見らめども人こそ知らね松は知るらむ
[仮名],あまがけり,ありがよひつつ,みらめども,ひとこそしらね,まつはしるらむ
[左注]右件歌等雖不挽柩之時所作<準>擬歌意 故以載于挽歌類焉
[校異]
[KW],挽歌,作者:山上憶良,追和,長意吉麻呂,有間皇子,結び松,宴席,行幸,難訓,植物
146[題詞]大寶元年辛醜幸于紀伊國時<見>結松歌一首 [柿本朝臣人麻呂歌集中出也][原文]後将見跡 君之結有 磐代乃 子松之宇禮乎 又将見香聞
[訓読]後見むと君が結べる磐代の小松がうれをまたも見むかも
[仮名],のちみむと,きみがむすべる,いはしろの,こまつがうれを,またもみむかも
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,柿本人麻呂歌集,結び松,和歌山,地名,植物
147[題詞]近江大津宮禦宇天皇代 [天命開別天皇謚曰天智天皇] / 天皇聖躬不豫之時太後奉禦歌一首[原文]天原 振放見者 大王乃 禦壽者長久 天足有
[訓読]天の原振り放け見れば大君の禦壽は長く天足らしたり
[仮名],あまのはら,ふりさけみれば,おほきみの,みいのちはながく,あまたらしたり
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:倭皇後,天智天皇,近江朝挽歌,壽詞,大津,滋賀県,地名
148[題詞]一書曰近江天皇聖躰不豫禦病急時<太>後奉獻禦歌一首[原文]青旗乃 木旗能上乎 賀欲布跡羽 目尓者雖視 直尓不相香裳
[訓読]青旗の木幡の上を通ふとは目には見れども直に逢はぬかも
[仮名],あをはたの,こはたのうへを,かよふとは,めにはみれども,ただにあはぬかも
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:倭皇後,天智天皇,近江朝挽歌,一書,幻想,大津,滋賀県,地名
149[題詞]天皇崩後之時倭太後禦作歌一首[原文]人者縦 念息登母 玉蘰 影尓所見乍 不所忘鴨
[訓読]人はよし思ひやむとも玉葛影に見えつつ忘らえぬかも
[仮名],ひとはよし,おもひやむとも,たまかづら,かげにみえつつ,わすらえぬかも
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:倭皇後,天智天皇,近江朝挽歌,復活,鎮魂,魂よばひ,大津,滋賀県,地名
150[題詞]天皇崩時婦人作歌一首 [姓氏未詳][原文]空蟬師 神尓不勝者 離居而 朝嘆君 放居而 吾戀君 玉有者 手尓巻持而 衣有者 脫時毛無 吾戀 君曽伎賊乃夜 夢所見鶴
[訓読]うつせみし 神に堪へねば 離れ居て 朝嘆く君 放り居て 我が戀ふる君 玉ならば 手に巻き持ちて 衣ならば 脫く時もなく 我が戀ふる 君ぞ昨夜の夜 夢に見えつる
[仮名],うつせみし,かみにあへねば,はなれゐて,あさなげくきみ,さかりゐて,あがこふるきみ,たまならば,てにまきもちて,きぬならば,ぬくときもなく,あがこふる,きみぞきぞのよ,いめにみえつる
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:婦人,天智天皇,近江朝挽歌,鎮魂,復活,魂よばひ,大津,滋賀県,地名
151[題詞]天皇大殯之時歌二首[原文]如是有乃 <懐>知勢婆 大禦船 泊之登萬裡人 標結麻思乎 [額田王]
[訓読]かからむとかねて知りせば大禦船泊てし泊りに標結はましを [額田王]
[仮名],かからむと,かねてしりせば,おほみふね,はてしとまりに,しめゆはましを
[左注]
[校異]豫
懐 [金][類][古] / 人 [古][紀] 尓[KW],挽歌,作者:額田王,天智天皇,近江朝挽歌,殯宮,魂よばひ,大津,滋賀県,地名
152[題詞](天皇大殯之時歌二首)[原文]八隅知之 吾期大王乃 大禦船 待可将戀 四賀乃辛埼 [舎人吉年]
[訓読]やすみしし我ご大君の大禦船待ちか戀ふらむ志賀の唐崎 [舎人吉年]
[仮名],やすみしし,わごおほきみの,おほみふね,まちかこふらむ,しがのからさき
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人吉年,天智天皇,近江朝挽歌,殯宮,滋賀,地名,枕詞
153[題詞]<太>後禦歌一首[原文]鯨魚取 淡海乃海乎 奧放而 榜來船 邊附而 榜來船 奧津加伊 痛勿波祢曽 邊津加伊 痛莫波祢曽 若草乃 嬬之 念鳥立
[訓読]鯨魚取り 近江の海を 沖放けて 漕ぎ來る船 辺付きて 漕ぎ來る船 沖つ櫂 いたくな撥ねそ 辺つ櫂 いたくな撥ねそ 若草の 夫の 思ふ鳥立つ
[仮名],いさなとり,あふみのうみを,おきさけて,こぎきたるふね,へつきて,こぎくるふね,おきつかい,いたくなはねそ,へつかい,いたくなはねそ,わかくさの,つまの,おもふとりたつ
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:倭皇後,天智天皇,鎮魂,近江朝挽歌,大津,滋賀県,地名
154[題詞]石川夫人歌一首[原文]神樂浪乃 大山守者 為誰<可> 山尓標結 君毛不有國
[訓読]楽浪の大山守は誰がためか山に標結ふ君もあらなくに
[仮名],ささなみの,おほやまもりは,たがためか,やまにしめゆふ,きみもあらなくに
[左注]
[校異]<>
可 [金][類][古][KW],挽歌,作者:石川夫人,天智天皇,悲しみ,大津,滋賀県,地名
155[題詞]従山科禦陵退散之時額田王作歌一首[原文]八隅知之 和期大王之 恐也 禦陵奉仕流 山科乃 鏡山尓 夜者毛 夜之盡 晝者母 日之盡 哭耳<呼> 泣乍在而哉 百礒城乃 大宮人者 去別南
[訓読]やすみしし 我ご大君の 畏きや 禦陵仕ふる 山科の 鏡の山に 夜はも 夜のことごと 晝はも 日のことごと 哭のみを 泣きつつありてや ももしきの 大宮人は 行き別れなむ
[仮名],やすみしし,わごおほきみの,かしこきや,みはかつかふる,やましなの,かがみのやまに,よるはも,よのことごと,ひるはも,ひのことごと,ねのみを,なきつつありてや,ももしきの,おほみやひとは,ゆきわかれなむ
[左注]
[校異]乎
呼 [金][類][紀][KW],挽歌,作者:額田王,天智天皇,殯宮,京都,大津,滋賀県,地名
156[題詞]明日香清禦原宮禦宇天皇代 [天渟中原瀛真人天皇謚曰天武天皇] / 十市皇女薨時高市皇子尊禦作歌三首[原文]三諸之 神之神須疑 已具耳矣自得見監乍共 不寝夜叙多
[訓読]みもろの神の神杉已具耳矣自得見監乍共寝ねぬ夜ぞ多き
[仮名],みもろの,かみのかむすぎ,*****,*******,いねぬよぞおほき
[左注](紀曰七年<戊>寅夏四月丁亥朔癸巳十市皇女卒然病發薨於宮中)
[校異]
[KW],挽歌,作者:高市皇子,十市皇女,難訓,夢,復活,三輪山,奈良,地名
157[題詞](十市皇女薨時高市皇子尊禦作歌三首)[原文]神山之 山邊真蘇木綿 短木綿 如此耳故尓 長等思伎
[訓読]三輪山の山辺真麻木綿短か木綿かくのみからに長くと思ひき
[仮名],みわやまの,やまへまそゆふ,みじかゆふ,かくのみからに,ながくとおもひき
[左注](紀曰七年<戊>寅夏四月丁亥朔癸巳十市皇女卒然病發薨於宮中)
[校異]
[KW],挽歌,作者:高市皇子,十市皇女,難訓,夢,復活,三輪山,奈良,地名
158[題詞](十市皇女薨時高市皇子尊禦作歌三首)[原文]山振之 立儀足 山清水 酌尓雖行 道之白鳴
[訓読]山吹の立ちよそひたる山清水汲みに行かめど道の知らなく
[仮名],やまぶきの,たちよそひたる,やましみづ,くみにゆかめど,みちのしらなく
[左注]紀曰七年<戊>寅夏四月丁亥朔癸巳十市皇女卒然病發薨於宮中
[校異]
[KW],挽歌,作者:高市皇子,十市皇女,難訓,夢,復活,山中他界
159[題詞]天皇崩之時大後禦作歌一首[原文]八隅知之 我大王之 暮去者 召賜良之 明來者 問賜良志 神嶽乃 山之黃葉乎 今日毛鴨 問給麻思 明日毛鴨 召賜萬旨 其山乎 振放見乍 暮去者 綾哀 明來者 裏佐備晩 荒妙乃 衣之袖者 乾時文無
[訓読]やすみしし 我が大君の 夕されば 見したまふらし 明け來れば 問ひたまふらし 神嶽の 山の黃葉を 今日もかも 問ひたまはまし 明日もかも 見したまはまし その山を 振り放け見つつ 夕されば あやに悲しみ 明け來れば うらさび暮らし 荒栲の 衣の袖は 幹る時もなし
[仮名],やすみしし,わがおほきみの,ゆふされば,めしたまふらし,あけくれば,とひたまふらし,かむおかの,やまのもみちを,けふもかも,とひたまはまし,あすもかも,めしたまはまし,そのやまを,ふりさけみつつ,ゆふされば,あやにかなしみ,あけくれば,うらさびくらし,あらたへの,ころものそでは,ふるときもなし
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:持統天皇,天武天皇,殯宮,飛鳥,地名,枕詞,植物
160[題詞]一書曰天皇崩之時太上天皇禦製歌二首[原文]燃火物 取而L而 福路庭 入澄不言八面 智男雲
[訓読]燃ゆる火も取りて包みて袋には入ると言はずやも智男雲
[仮名],もゆるひも,とりてつつみて,ふくろには,いるといはずやも,***
[左注]
[校異]澄 [古] 登 (塙) 燈
[KW],挽歌,作者:持統天皇,天武天皇,難解,難訓,一書
161[題詞](一書曰天皇崩之時太上天皇禦製歌二首)[原文]向南山 陳雲之 青雲之 星離去 月<矣>離而
[訓読]北山にたなびく雲の青雲の星離り行き月を離れて
[仮名],きたやまに,たなびくくもの,あをくもの,ほしさかりゆき,つきをはなれて
[左注]
[校異]牟
矣 [金][紀][KW],挽歌,作者:持統天皇,天武天皇,難解,一書
162[題詞]天皇崩之後八年九月九日奉為禦齊會之夜夢裏習賜禦歌一首 [古歌集中出][原文]明日香能 清禦原乃宮尓 天下 所知食之 八隅知之 吾大王 高照 日之皇子 何方尓 所念食可 神風乃 伊勢能國者 奧津藻毛 靡足波尓 塩氣能味 香乎禮流國尓 味凝 文尓乏寸 高照 日之禦子
[訓読]明日香の 清禦原の宮に 天の下 知らしめしし やすみしし 我が大君 高照らす 日の禦子 いかさまに 思ほしめせか 神風の 伊勢の國は 沖つ藻も 靡みたる波に 潮気のみ 香れる國に 味凝り あやにともしき 高照らす 日の禦子
[仮名],あすかの,きよみのみやに,あめのした,しらしめしし,やすみしし,わがおほきみ,たかてらす,ひのみこ,いかさまに,おもほしめせか,かむかぜの,いせのくには,おきつもも,なみたるなみに,しほけのみ,かをれるくにに,うまこり,あやにともしき,たかてらす,ひのみこ
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:持統天皇,天武天皇,夢,古歌集,復活,枕詞
163[題詞]藤原宮禦宇天皇代 [高天原廣野姫天皇<天皇元年丁亥十一年譲位軽太子尊号曰太上天皇>] / 大津皇子薨之後大來皇女従伊勢齊宮上京之時禦作歌二首[原文]神風<乃> 伊勢能國尓<母> 有益乎 奈何可來計武 君毛不有尓
[訓読]神風の伊勢の國にもあらましを何しか來けむ君もあらなくに
[仮名],かむかぜの,いせのくににも,あらましを,なにしかきけむ,きみもあらなくに
[左注]
[校異]之
乃 [金][類][古][紀] / 毛母 [金][類][紀][KW],挽歌,作者:大伯皇女,大津皇子,歌語り,哀悼,飛鳥,地名,枕詞
164[題詞](大津皇子薨之後大來皇女従伊勢齋宮上京之時禦作歌二首)[原文]欲見 吾為君毛 不有尓 奈何可來計武 馬疲尓
[訓読]見まく欲り我がする君もあらなくに何しか來けむ馬疲るるに
[仮名],みまくほり,わがするきみも,あらなくに,なにしかきけむ,うまつかるるに
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:大伯皇女,大津皇子,歌語り,哀悼,飛鳥,地名,枕詞
165[題詞]移葬大津皇子屍於葛城二上山之時大來皇女哀傷禦作歌二首[原文]宇都曽見乃 人尓有吾哉 従明日者 二上山乎 弟世登吾将見
[訓読]うつそみの人にある我れや明日よりは二上山を弟背と我が見む
[仮名],うつそみの,ひとにあるわれや,あすよりは,ふたかみやまを,いろせとわがみむ
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:大伯皇女,大津皇子,歌語り,哀悼,二上山,飛鳥,地名,枕詞
166[題詞](移葬大津皇子屍於葛城二上山之時大來皇女哀傷禦作歌二首)[原文]礒之於尓 生流馬酔木<乎> 手折目杼 令視倍吉君之 在常不言尓
[訓読]磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど見すべき君が在りと言はなくに
[仮名],いそのうへに,おふるあしびを,たをらめど,みすべききみが,ありといはなくに
[左注]右一首今案不似移葬之歌 蓋疑従伊勢神宮還京之時路上見花感傷哀咽作此歌乎
[校異]<>
乎 [西(右書)][金][類][紀][KW],挽歌,作者:大伯皇女,大津皇子,歌語り,哀悼,二上山,飛鳥,地名
167[題詞]日並皇子尊殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌][原文]天地之 <初時> 久堅之 天河原尓 八百萬 千萬神之 神集 々座而 神分 々之時尓 天照 日女之命 [一雲 指上 日女之命] 天乎婆 所知食登 葦原乃 水穂之國乎 天地之 依相之極 所知行 神之命等 天雲之 八重掻別而 [一雲 天雲之 八重雲別而] 神下 座奉之 高照 日之皇子波 飛鳥之 浄之宮尓 神随 太布座而 天皇之 敷座國等 天原 石門乎開 神上 々座奴 [一雲 神登 座尓之可婆] 吾王 皇子之命乃 天下 所知食世者 春花之 貴在等 望月乃 満波之計武跡 天下 [一雲 食國] 四方之人乃 大船之 思憑而 天水 仰而待尓 何方尓 禦念食可 由縁母無 真弓乃岡尓 宮柱 太布座 禦在香乎 高知座而 明言尓 禦言不禦問 日月之 數多成塗 其故 皇子之宮人 行方不知毛 [一雲 刺竹之 皇子宮人 歸邊不知尓為]
[訓読]天地の 初めの時 ひさかたの 天の河原に 八百萬 千萬神の 神集ひ 集ひいまして 神分り 分りし時に 天照らす 日女の命 [一雲 さしのぼる 日女の命] 天をば 知らしめすと 葦原の 瑞穂の國を 天地の 寄り合ひの極み 知らしめす 神の命と 天雲の 八重かき別きて [一雲 天雲の八重雲別きて] 神下し いませまつりし 高照らす 日の禦子は 飛ぶ鳥の 清禦原の宮に 神ながら 太敷きまして すめろきの 敷きます國と 天の原 岩戸を開き 神上り 上りいましぬ [一雲 神登り いましにしかば] 我が大君 皇子の命の 天の下 知らしめしせば 春花の 貴くあらむと 望月の 満しけむと 天の下 食す國 四方の人の 大船の 思ひ頼みて 天つ水 仰ぎて待つに いかさまに 思ほしめせか つれもなき 真弓の岡に 宮柱 太敷きいまし みあらかを 高知りまして 朝言に 禦言問はさぬ 日月の 數多くなりぬれ そこ故に 皇子の宮人 ゆくへ知らずも [一雲 さす竹の 皇子の宮人 ゆくへ知らにす]
[仮名],あめつちの,はじめのとき,ひさかたの,あまのかはらに,やほよろづ,ちよろづかみの,かむつどひ,つどひいまして,かむはかり,はかりしときに,あまてらす,ひるめのみこと,[さしのぼる,ひるめのみこと],あめをば,しらしめすと,あしはらの,みづほのくにを,あめつちの,よりあひのきはみ,しらしめす,かみのみことと,あまくもの,やへかきわきて,[あまくもの,やへくもわきて],かむくだし,いませまつりし,たかてらす,ひのみこは,とぶとりの,きよみのみやに,かむながら,ふとしきまして,すめろきの,しきますくにと,あまのはら,いはとをひらき,かむあがり,あがりいましぬ,[かむのぼり,いましにしかば],わがおほきみ,みこのみことの,あめのした,しらしめしせば,はるはなの,たふとくあらむと,もちづきの,たたはしけむと,あめのした,[をすくに],よものひとの,おほぶねの,おもひたのみて,あまつみづ,あふぎてまつに,いかさまに,おもほしめせか,つれもなき,まゆみのをかに,みやばしら,ふとしきいまし,みあらかを,たかしりまして,あさことに,みこととはさぬ,ひつきの,まねくなりぬれ,そこゆゑに,みこのみやひと,ゆくへしらずも,[さすたけの,みこのみやひと,ゆくへしらにす]
[左注]
[校異]初時之
初時 [金][類][紀][KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,草壁皇子,殯宮挽歌,高天原,天武天皇,神話,異伝,推敲,高市皇子,神話発想
168[題詞](日並皇子尊殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])反歌二首[原文]久堅乃 天見如久 仰見之 皇子乃禦門之 荒巻惜毛
[訓読]ひさかたの天見るごとく仰ぎ見し皇子の禦門の荒れまく惜しも
[仮名],ひさかたの,あめみるごとく,あふぎみし,みこのみかどの,あれまくをしも
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,草壁皇子,殯宮挽歌,異伝,高市皇子,枕詞
169[題詞]((日並皇子尊殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])反歌二首)[原文]茜刺 日者雖照者 烏玉之 夜渡月之 隠良久惜毛
[訓読]あかねさす日は照らせれどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しも
[仮名],あかねさす,ひはてらせれど,ぬばたまの,よわたるつきの,かくらくをしも
[左注][<或本>以件歌為後皇子尊殯宮之時歌反也]
[校異]
[KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,草壁皇子,殯宮挽歌,異伝,高市皇子,枕詞
170[題詞](日並皇子尊殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])或本歌一首[原文]嶋宮 勾乃池之 放鳥 人目尓戀而 池尓不潛
[訓読]嶋の宮まがりの池の放ち鳥人目に戀ひて池に潛かず
[仮名],しまのみや,まがりのいけの,はなちとり,ひとめにこひて,いけにかづかず
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,草壁皇子,殯宮挽歌,或本,異伝,飛鳥,地名
171[題詞]皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首[原文]高光 我日皇子乃 萬代尓 國所知麻之 嶋宮<波>母
[訓読]高照らす我が日の禦子の萬代に國知らさまし嶋の宮はも
[仮名],たかてらす,わがひのみこの,よろづよに,くにしらさまし,しまのみやはも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]婆
波 [金][類][古][紀][KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
172[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]嶋宮 上池有 放鳥 荒備勿行 君不座十方
[訓読]嶋の宮上の池なる放ち鳥荒びな行きそ君座さずとも
[仮名],しまのみや,うへのいけなる,はなちとり,あらびなゆきそ,きみまさずとも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
173[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]高光 吾日皇子乃 伊座世者 嶋禦門者 不荒有益乎
[訓読]高照らす我が日の禦子のいましせば島の禦門は荒れずあらましを
[仮名],たかてらす,わがひのみこの,いましせば,しまのみかどは,あれずあらましを
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
174[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]外尓見之 檀乃岡毛 君座者 常都禦門跡 侍宿為鴨
[訓読]外に見し真弓の岡も君座せば常つ禦門と侍宿するかも
[仮名],よそにみし,まゆみのをかも,きみませば,とこつみかどと,とのゐするかも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,殯宮挽歌,真弓岡,飛鳥,地名
175[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]夢尓谷 不見在之物乎 欝悒 宮出毛為鹿 佐日之<隈>廻乎
[訓読]夢にだに見ずありしものをおほほしく宮出もするかさ桧の隈廻を
[仮名],いめにだに,みずありしものを,おほほしく,みやでもするか,さひのくまみを
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]隅
隈 [金][紀][KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
176[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]天地與 共将終登 念乍 奉仕之 情違奴
[訓読]天地とともに終へむと思ひつつ仕へまつりし心違ひぬ
[仮名],あめつちと,ともにをへむと,おもひつつ,つかへまつりし,こころたがひぬ
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
177[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]朝日弖流 佐太乃岡邊尓 群居乍 吾等哭涙 息時毛無
[訓読]朝日照る佐田の岡辺に群れ居つつ我が泣く涙やむ時もなし
[仮名],あさひてる,さだのをかへに,むれゐつつ,わがなくなみた,やむときもなし
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,佐田岡,殯宮挽歌,飛鳥,地名
178[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]禦立為之 嶋乎見時 庭多泉 流涙 止曽金鶴
[訓読]み立たしの島を見る時にはたづみ流るる涙止めぞかねつる
[仮名],みたたしの,しまをみるとき,にはたづみ,ながるるなみた,とめぞかねつる
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
179[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]橘之 嶋宮尓者 不飽鴨 佐<田>乃岡邊尓 侍宿為尓徃
[訓読]橘の嶋の宮には飽かぬかも佐田の岡辺に侍宿しに行く
[仮名],たちばなの,しまのみやには,あかぬかも,さだのをかへに,とのゐしにゆく
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]多
田 [類][紀][溫][KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
180[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]禦立為之 嶋乎母家跡 住鳥毛 荒備勿行 年替左右
[訓読]み立たしの島をも家と棲む鳥も荒びな行きそ年かはるまで
[仮名],みたたしの,しまをもいへと,すむとりも,あらびなゆきそ,としかはるまで
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
181[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]禦立為之 嶋之荒礒乎 今見者 不生有之草 生尓來鴨
[訓読]み立たしの島の荒礒を今見れば生ひざりし草生ひにけるかも
[仮名],みたたしの,しまのありそを,いまみれば,おひざりしくさ,おひにけるかも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
182[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]鳥M立 飼之鴈乃兒 栖立<去>者 檀岡尓 飛反來年
[訓読]鳥座立て飼ひし雁の子巣立ちなば真弓の岡に飛び帰り來ね
[仮名],とぐらたて,かひしかりのこ,すだちなば,まゆみのをかに,とびかへりこね
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]M [類][紀] 垣 / <>
去 [西(右書)][類][紀][KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,真弓岡,殯宮挽歌,飛鳥,地名
183[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]吾禦門 千代常登婆尓 将榮等 念而有之 吾志悲毛
[訓読]我が禦門千代とことばに栄えむと思ひてありし我れし悲しも
[仮名],わがみかど,ちよとことばに,さかえむと,おもひてありし,われしかなしも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
184[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]東乃 多藝能禦門尓 雖伺侍 昨日毛今日毛 召言毛無
[訓読]東のたぎの禦門に侍へど昨日も今日も召す言もなし
[仮名],ひむがしの,たぎのみかどに,さもらへど,きのふもけふも,めすこともなし
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
185[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]水傳 礒乃浦廻乃 石<上>乍自 木丘開道乎 又将見鴨
[訓読]水伝ふ礒の浦廻の岩つつじ茂く咲く道をまたも見むかも
[仮名],みなつたふ,いそのうらみの,いはつつじ,もくさくみちを,またもみむかも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]<>
上 [金][類][紀][KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
186[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]一日者 千遍參入之 東乃 大寸禦門乎 入不勝鴨
[訓読]一日には千たび參りし東の大き禦門を入りかてぬかも
[仮名],ひとひには,ちたびまゐりし,ひむがしの,おほきみかどを,いりかてぬかも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
187[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]所由無 佐太乃岡邊尓 反居者 嶋禦橋尓 誰加住<N>無
[訓読]つれもなき佐田の岡辺に帰り居ば島の禦階に誰れか住まはむ
[仮名],つれもなき,さだのをかへに,かへりゐば,しまのみはしに,たれかすまはむ
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]舞
N [金][類][古][KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,佐田岡,殯宮挽歌,飛鳥,地名
188[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]<旦>覆 日之入去者 禦立之 嶋尓下座而 嘆鶴鴨
[訓読]朝ぐもり日の入り行けばみ立たしの島に下り居て嘆きつるかも
[仮名],あさぐもり,ひのいりゆけば,みたたしの,しまにおりゐて,なげきつるかも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]且
旦 [金][類][古][紀][KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
189[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]<旦>日照 嶋乃禦門尓 欝悒 人音毛不為者 真浦悲毛
[訓読]朝日照る嶋の禦門におほほしく人音もせねばまうら悲しも
[仮名],あさひてる,しまのみかどに,おほほしく,ひとおともせねば,まうらがなしも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]且
旦 [金][類][古][紀][KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
190[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]真木柱 太心者 有之香杼 此吾心 鎮目金津毛
[訓読]真木柱太き心はありしかどこの我が心鎮めかねつも
[仮名],まきばしら,ふときこころは,ありしかど,このあがこころ,しづめかねつも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
191[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]毛許呂裳遠 春冬片設而 幸之 宇陀乃大野者 所念武鴨
[訓読]けころもを時かたまけて出でましし宇陀の大野は思ほえむかも
[仮名],けころもを,ときかたまけて,いでましし,うだのおほのは,おもほえむかも
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
192[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]朝日照 佐太乃岡邊尓 鳴鳥之 夜鳴變布 此年己呂乎
[訓読]朝日照る佐田の岡辺に泣く鳥の夜哭きかへらふこの年ころを
[仮名],あさひてる,さだのをかへに,なくとりの,よなきかへらふ,このとしころを
[左注](右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨)
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,佐田岡,殯宮挽歌,飛鳥,地名
193[題詞](皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首)[原文]八多篭良我 夜晝登不雲 行路乎 吾者皆悉 宮道叙為
[訓読]畑子らが夜晝といはず行く道を我れはことごと宮道にぞする
[仮名],はたこらが,よるひるといはず,ゆくみちを,われはことごと,みやぢにぞする
[左注]右日本紀曰 三年己醜夏四月癸未朔乙未薨
[校異]
[KW],挽歌,作者:舎人,草壁皇子,柿本人麻呂,島の宮,殯宮挽歌,飛鳥,地名
194[題詞]柿本朝臣人麻呂獻泊瀬部皇女忍坂部皇子歌一首[并短歌][原文]飛鳥 明日香乃河之 上瀬尓 生玉藻者 下瀬尓 流觸經 玉藻成 彼依此依 靡相之 嬬乃命乃 多田名附 柔<膚>尚乎 劔刀 於身副不寐者 烏玉乃 夜床母荒良無 [一雲 <阿>禮奈牟] 所虛故 名具鮫<兼>天 氣<田>敷藻 相屋常念而 [一雲 公毛相哉登] 玉垂乃 越<能>大野之 旦露尓 玉裳者O打 夕霧尓 衣者<沾>而 草枕 旅宿鴨為留 不相君故
[訓読]飛ぶ鳥の 明日香の川の 上つ瀬に 生ふる玉藻は 下つ瀬に 流れ觸らばふ 玉藻なす か寄りかく寄り 靡かひし 嬬の命の たたなづく 柔肌すらを 剣太刀 身に添へ寝ねば ぬばたまの 夜床も荒るらむ [一雲 荒れなむ] そこ故に 慰めかねて けだしくも 逢ふやと思ひて [一雲 君も逢ふやと] 玉垂の 越智の大野の 朝露に 玉藻はひづち 夕霧に 衣は濡れて 草枕 旅寝かもする 逢はぬ君故
[仮名],とぶとりの,あすかのかはの,かみつせに,おふるたまもは,しもつせに,ながれふらばふ,たまもなす,かよりかくより,なびかひし,つまのみことの,たたなづく,にきはだすらを,つるぎたち,みにそへねねば,ぬばたまの,よとこもあるらむ,[あれなむ],そこゆゑに,なぐさめかねて,けだしくも,あふやとおもひて,[きみもあふやと],たまだれの,をちのおほのの,あさつゆに,たまもはひづち,ゆふぎりに,ころもはぬれて,くさまくら,たびねかもする,あはぬきみゆゑ
[左注](右或本曰 葬河嶋皇子越智野之時 獻泊瀬部皇女歌也 日本紀<雲>朱鳥五年辛卯秋九月己巳朔丁醜浄大參皇子川嶋薨)
[校異]庸
膚 [金][矢][京] / 何阿 [類][紀] / 魚兼 [略解] / 留田 [金][類] / 乃能 [金][紀] / 沽沾 [金][溫][京][KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,泊瀬部皇女,忍坂皇子,代作,獻呈挽歌,異伝,飛鳥,地名,枕詞
195[題詞](柿本朝臣人麻呂獻泊瀬部皇女忍坂部皇子歌一首[并短歌])反歌一首[原文]敷妙乃 袖易之君 玉垂之 越野過去 亦毛将相八方 [一雲 乎知野尓過奴]
[訓読]敷栲の袖交へし君玉垂の越智野過ぎ行くまたも逢はめやも [一雲 越智野に過ぎぬ]
[仮名],しきたへの,そでかへしきみ,たまだれの,をちのすぎゆく,またもあはめやも,[をちのにすぎぬ]
[左注]右或本曰 葬河嶋皇子越智野之時 獻泊瀬部皇女歌也 日本紀<雲>朱鳥五年辛卯秋九月己巳朔丁醜浄大參皇子川嶋薨
[校異]
[KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,泊瀬部皇女,忍坂皇子,代作,獻呈挽歌,異伝,飛鳥,枕詞,地名
196[題詞]明日香皇女木P殯宮之時柿本<朝臣>人麻呂作歌一首[并短歌][原文]飛鳥 明日香乃河之 上瀬 石橋渡 [一雲 石浪] 下瀬 打橋渡 石橋 [一雲 石浪] 生靡留 玉藻毛叙 絶者生流 打橋 生乎為禮流 川藻毛叙 幹者波由流 何然毛 吾<王><能> 立者 玉藻之<母>許呂 臥者 川藻之如久 靡相之 宣君之 朝宮乎 忘賜哉 夕宮乎 背賜哉 宇都曽臣跡 念之時 春都者 花折挿頭 秋立者 黃葉挿頭 敷妙之 袖攜 鏡成 雖見不Q 三五月之 益目頬染 所念之 君與時々 幸而 遊賜之 禦食向 木P之宮乎 常宮跡 定賜 味澤相 目辭毛絶奴 然有鴨 [一雲 所己乎之毛] 綾尓憐 宿兄鳥之 片戀嬬 [一雲 為乍] 朝鳥 [一雲 朝霧] 徃來為君之 夏草乃 念之萎而 夕星之 彼徃此去 大船 猶預不定見者 遣<悶>流 情毛不在 其故 為便知之也 音耳母 名耳毛不絶 天地之 彌遠長久 思将徃 禦名尓懸世流 明日香河 及萬代 早布屋師 吾王乃 形見何此焉
[訓読]飛ぶ鳥の 明日香の川の 上つ瀬に 石橋渡し [一雲 石なみ] 下つ瀬に 打橋渡す 石橋に [一雲 石なみに] 生ひ靡ける 玉藻もぞ 絶ゆれば生ふる 打橋に 生ひををれる 川藻もぞ 枯るれば生ゆる なにしかも 我が大君の 立たせば 玉藻のもころ 臥やせば 川藻のごとく 靡かひし 宜しき君が 朝宮を 忘れたまふや 夕宮を 背きたまふや うつそみと 思ひし時に 春へは 花折りかざし 秋立てば 黃葉かざし 敷栲の 袖たづさはり 鏡なす 見れども飽かず 望月の いやめづらしみ 思ほしし 君と時々 出でまして 遊びたまひし 禦食向ふ 城上の宮を 常宮と 定めたまひて あぢさはふ 目言も絶えぬ しかれかも [一雲 そこをしも] あやに悲しみ ぬえ鳥の 片戀づま [一雲 しつつ] 朝鳥の [一雲 朝霧の] 通はす君が 夏草の 思ひ萎えて 夕星の か行きかく行き 大船の たゆたふ見れば 慰もる 心もあらず そこ故に 為むすべ知れや 音のみも 名のみも絶えず 天地の いや遠長く 偲ひ行かむ 禦名に懸かせる 明日香川 萬代までに はしきやし 我が大君の 形見かここを
[仮名],とぶとり,あすかのかはの,かみつせに,いしはしわたし,[いしなみ],しもつせに,うちはしわたす,いしはしに,[いしなみに],おひなびける,たまももぞ,たゆればおふる,うちはしに,おひををれる,かはももぞ,かるればはゆる,なにしかも,わがおほきみの,たたせば,たまものもころ,こやせば,かはものごとく,なびかひし,よろしききみが,あさみやを,わすれたまふや,ゆふみやを,そむきたまふや,うつそみと,おもひしときに,はるへは,はなをりかざし,あきたてば,もみちばかざし,しきたへの,そでたづさはり,かがみなす,みれどもあかず,もちづきの,いやめづらしみ,おもほしし,きみとときとき,いでまして,あそびたまひし,みけむかふ,きのへのみやを,とこみやと,さだめたまひて,あぢさはふ,めこともたえぬ,しかれかも,[そこをしも],あやにかなしみ,ぬえどりの,かたこひづま,[しつつ],あさとりの,[あさぎりの],かよはすきみが,なつくさの,おもひしなえて,ゆふつづの,かゆきかくゆき,おほぶねの,たゆたふみれば,なぐさもる,こころもあらず,そこゆゑに,せむすべしれや,おとのみも,なのみもたえず,あめつちの,いやとほながく,しのひゆかむ,みなにかかせる,あすかがは,よろづよまでに,はしきやし,わがおほきみの,かたみかここを
[左注]
[校異]生 王 [金][紀] / 乃 能 [金][紀] / 如 母 [金] / 預 [西(左筆)] 豫 / 問 悶 [西(訂正)][金][類][溫][KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,明日香皇女,殯宮,飛鳥,地名,枕詞
197[題詞](明日香皇女木P殯宮之時柿本<朝臣>人麻呂作歌一首[并短歌])短歌二首[原文]明日香川 四我良美渡之 塞益者 進留水母 能杼尓賀有萬思 [一雲 水乃與杼尓加有益]
[訓読]明日香川しがらみ渡し塞かませば流るる水ものどにかあらまし [一雲 水の澱にかあらまし]
[仮名],あすかがは,しがらみわたし,せかませば,ながるるみづも,のどにかあらまし,[みづの,よどにかあらまし]
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,明日香皇女,殯宮,飛鳥,地名
198[題詞]((明日香皇女木P殯宮之時柿本<朝臣>人麻呂作歌一首[并短歌])短歌二首)[原文]明日香川 明日谷 [一雲 左倍] 将見等 念八方 [一雲 念香毛] 吾王 禦名忘世奴
[一雲 禦名不所忘]
[訓読]明日香川明日だに [一雲 さへ] 見むと思へやも [一雲 思へかも] 我が大君の禦名忘れせぬ [一雲 禦名忘らえぬ]
[仮名],あすかがは,あすだに[さへ]みむと,おもへやも,[おもへかも],わがおほきみの,みなわすれせぬ,[みなわすらえぬ]
[左注]
[校異][KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,明日香皇女,殯宮,飛鳥,地名
199[題詞]高市皇子尊城上殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌][原文]<挂>文 忌之伎鴨 [一雲 由遊志計禮抒母] 言久母 綾尓畏伎 明日香乃 真神之原尓 久堅能 天都禦門乎 懼母 定賜而 神佐扶跡 磐隠座 八隅知之 吾大王乃 所聞見為 背友乃國之 真木立 不破山越而 狛劔 和射見我原乃 行宮尓 安母理座而 天下 治賜 [一雲 <掃>賜而] 食國乎 定賜等 鶏之鳴 吾妻乃國之 禦軍士乎 喚賜而 千磐破 人乎和為跡 不奉仕 國乎治跡 [一雲 掃部等] 皇子随 任賜者 大禦身尓 大刀取帶之 大禦手尓 弓取持之 禦軍士乎 安騰毛比賜 齊流 鼓之音者 雷之 聲登聞麻R 吹響流 小角乃音母 [一雲 笛之音波] 敵見有 虎可S吼登 諸人之 恊流麻R尓 [一雲 聞<或>麻R] 指擧有 幡之靡者 冬木成 春去來者 野毎 著而有火之 [一雲 冬木成 春野焼火乃] 風之共 靡如久 取持流 弓波受乃驟 三雪落 冬乃林尓 [一雲 由布乃林] 飃可毛 伊巻渡等 念麻R 聞之恐久 [一雲 諸人 見<或>麻R尓] 引放 箭<之>繁計久 大雪乃 亂而來禮 [一雲 霰成 曽知餘裡久禮婆] 不奉仕 立向之毛 露霜之 消者消倍久 去鳥乃 相<競>端尓 [一雲 朝霜之 消者消言尓 打蟬等 安良蘇布波之尓] 渡會乃 齊宮従 神風尓 伊吹<或>之 天雲乎 日之目毛不<令>見 常闇尓 覆賜而 定之 水穂之國乎 神随 太敷座而 八隅知之 吾大王之 天下 申賜者 萬代<尓> 然之毛将有登 [一雲 如是毛安良無等] 木綿花乃 榮時尓 吾大王 皇子之禦門乎 [一雲 刺竹 皇子禦門乎] 神宮尓 裝束奉而 遣使 禦門之人毛 白妙乃 麻衣著 <埴>安乃 門之原尓 赤根刺 日之盡 鹿自物 伊波比伏管 烏玉能 暮尓至者 大殿乎 振放見乍 鶉成 伊波比廻 雖侍候 佐母良比不得者 春鳥之 佐麻欲比奴禮者 嘆毛 未過尓 憶毛 未<不>盡者 言<左>敝久 百濟之原従 神葬 々伊座而 朝毛吉 木上宮乎 常宮等 高之奉而 神随 安定座奴 雖然 吾大王之 萬代跡 所念食而 作良志之 香<來>山之宮 萬代尓 過牟登念哉 天之如 振放見乍 玉手次 懸而将偲 恐有騰文
[訓読]かけまくも ゆゆしきかも [一雲 ゆゆしけれども] 言はまくも あやに畏き 明日香の 真神の原に ひさかたの 天つ禦門を 畏くも 定めたまひて 神さぶと 磐隠ります やすみしし 我が大君の きこしめす 背面の國の 真木立つ 不破山超えて 高麗剣 和射見が原の 仮宮に 天降りいまして 天の下 治めたまひ [一雲 掃ひたまひて] 食す國を 定めたまふと 鶏が鳴く 東の國の 禦いくさを 召したまひて ちはやぶる 人を和せと 奉ろはぬ 國を治めと [一雲 掃へと] 皇子ながら 任したまへば 大禦身に 大刀取り佩かし 大禦手に 弓取り持たし 禦軍士を 率ひたまひ 整ふる 鼓の音は 雷の 聲と聞くまで 吹き鳴せる 小角の音も [一雲 笛の音は] 敵見たる 虎か吼ゆると 諸人の おびゆるまでに [一雲 聞き惑ふまで] ささげたる 幡の靡きは 冬こもり 春さり來れば 野ごとに つきてある火の [一雲 冬こもり 春野焼く火の] 風の共 靡くがごとく 取り持てる 弓弭の騒き み雪降る 冬の林に [一雲 木綿の林] つむじかも い巻き渡ると 思ふまで 聞きの畏く [一雲 諸人の 見惑ふまでに] 引き放つ 矢の繁けく 大雪の 亂れて來れ [一雲 霰なす そちより來れば] まつろはず 立ち向ひしも 露霜の 消なば消ぬべく 行く鳥の 争ふはしに [一雲 朝霜の 消なば消とふに うつせみと 争ふはしに] 渡會の 斎きの宮ゆ 神風に い吹き惑はし 天雲を 日の目も見せず 常闇に 覆ひ賜ひて 定めてし 瑞穂の國を 神ながら 太敷きまして やすみしし 我が大君の 天の下 申したまへば 萬代に しかしもあらむと [一雲 かくしもあらむと] 木綿花の 栄ゆる時に 我が大君 皇子の禦門を [一雲 刺す竹の 皇子の禦門を] 神宮に 裝ひまつりて 使はしし 禦門の人も 白栲の 麻衣着て 埴安の 禦門の原に あかねさす 日のことごと 獣じもの い匍ひ伏しつつ ぬばたまの 夕になれば 大殿を 振り放け見つつ 鶉なす い匍ひ廻り 侍へど 侍ひえねば 春鳥の さまよひぬれば 嘆きも いまだ過ぎぬに 思ひも いまだ盡きねば 言さへく 百済の原ゆ 神葬り 葬りいまして あさもよし 城上の宮を 常宮と 高く奉りて 神ながら 鎮まりましぬ しかれども 我が大君の 萬代と 思ほしめして 作らしし 香具山の宮 萬代に 過ぎむと思へや 天のごと 振り放け見つつ 玉たすき 懸けて偲はむ 畏かれども
[仮名],かけまくも,ゆゆしきかも,[ゆゆしけれども],いはまくも,あやにかしこき,あすかの,まかみのはらに,ひさかたの,あまつみかどを,かしこくも,さだめたまひて,かむさぶと,いはがくります,やすみしし,わがおほきみの,きこしめす,そとものくにの,まきたつ,ふはやまこえて,こまつるぎ,わざみがはらの,かりみやに,あもりいまして,あめのした,をさめたまひ,[はらひたまひて],をすくにを,さだめたまふと,とりがなく,あづまのくにの,みいくさを,めしたまひて,ちはやぶる,ひとをやはせと,まつろはぬ,くにををさめと,[はらへと],みこながら,よさしたまへば,おほみみに,たちとりはかし,おほみてに,ゆみとりもたし,みいくさを,あどもひたまひ,ととのふる,つづみのおとは,いかづちの,こゑときくまで,ふきなせる,くだのおとも,[ふえのおとは],あたみたる,とらかほゆると,もろひとの,おびゆるまでに,[ききまどふまで],ささげたる,はたのなびきは,ふゆこもり,はるさりくれば,のごとに,つきてあるひの,[ふゆこもり,はるのやくひの],かぜのむた,なびくがごとく,とりもてる,ゆはずのさわき,みゆきふる,ふゆのはやしに,[ゆふのはやし],つむじかも,いまきわたると,おもふまで,ききのかしこく,[もろひとの,みまどふまでに],ひきはなつ,やのしげけく,おほゆきの,みだれてきたれ,[あられなす,そちよりくれば],まつろはず,たちむかひしも,つゆしもの,けなばけぬべく,ゆくとりの,あらそふはしに,[あさしもの,けなばけとふに,うつせみと,あらそふはしに],わたらひの,いつきのみやゆ,かむかぜに,いふきまとはし,あまくもを,ひのめもみせず,とこやみに,おほひたまひて,さだめてし,みづほのくにを,かむながら,ふとしきまして,やすみしし,わがおほきみの,あめのした,まをしたまへば,よろづよに,しかしもあらむと,[かくしもあらむと],ゆふばなの,さかゆるときに,わがおほきみ,みこのみかどを,[さすたけの,みこのみかどを],かむみやに,よそひまつりて,つかはしし,みかどのひとも,しろたへの,あさごろもきて,はにやすの,みかどのはらに,あかねさす,ひのことごと,ししじもの,いはひふしつつ,ぬばたまの,ゆふへになれば,おほとのを,ふりさけみつつ,うづらなす,いはひもとほり,さもらへど,さもらひえねば,はるとりの,さまよひぬれば,なげきも,いまだすぎぬに,おもひも,いまだつきねば,ことさへく,くだらのはらゆ,かみはぶり,はぶりいまして,あさもよし,きのへのみやを,とこみやと,たかくまつりて,かむながら,しづまりましぬ,しかれども,わがおほきみの,よろづよと,おもほしめして,つくらしし,かぐやまのみや,よろづよに,すぎむとおもへや,あめのごと,ふりさけみつつ,たまたすき,かけてしのはむ,かしこかれども
[左注]
[校異]桂
挂 [金][類] / 拂掃 [金][類] / 惑或 [類][紀] / R [金][類](塙)(楓) 泥 / 惑或 [金][類] / <>之 [金][紀] / 竟競 [西(補筆)][類][紀] / 惑或 [金][類] / 合令 [西(左筆)][金] / <>尓 [金][類][紀] / 垣埴 [細][溫][京] / <>不 [金][類][紀] / 右左 [金] / 未來 [金][類][紀][KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,高市皇子,殯宮,壬申の亂,飛鳥,地名,枕詞
200[題詞](高市皇子尊城上殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])短歌二首[原文]久堅之 天所知流 君故尓 日月毛不知 戀渡鴨
[訓読]ひさかたの天知らしぬる君故に日月も知らず戀ひわたるかも
[仮名],ひさかたの,あめしらしぬる,きみゆゑに,ひつきもしらず,こひわたるかも
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,高市皇子,殯宮,飛鳥,地名
201[題詞]((高市皇子尊城上殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])短歌二首)[原文]<埴>安乃 池之堤之 隠沼乃 去方乎不知 舎人者迷惑
[訓読]埴安の池の堤の隠り沼のゆくへを知らに舎人は惑ふ
[仮名],はにやすの,いけのつつみの,こもりぬの,ゆくへをしらに,とねりはまとふ
[左注]
[校異]垣
埴 [紀][KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,高市皇子,殯宮,飛鳥,地名
202[題詞](高市皇子尊城上殯宮之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])或書反歌一首[原文]哭澤之 神社尓三輪須恵 雖禱祈 我王者 高日所知奴
[訓読]哭沢の神社に三輪據ゑ祈れども我が大君は高日知らしぬ
[仮名],なきさはの,もりにみわすゑ,いのれども,わがおほきみは,たかひしらしぬ
[左注]右一首類聚歌林曰 桧隈女王怨泣澤神社之歌也 案日本紀<雲>十年丙申秋七月辛醜朔庚戌後<皇子>尊薨
[校異]
[KW],挽歌,作者:桧隈女王,高市皇子,殯宮,飛鳥,地名
203[題詞]但馬皇女薨後穂積皇子冬日雪落遙望禦墓悲傷流涕禦作歌一首[原文]零雪者 安播尓勿落 吉隠之 豬養乃岡之 塞為巻尓
[訓読]降る雪はあはにな降りそ吉隠の豬養の岡の塞なさまくに
[仮名],ふるゆきは,あはになふりそ,よなばりの,ゐかひのをかの,せきなさまくに
[左注]
[校異]塞 [金](塙)(楓) 寒 / 為 [桧嬬手](塙)(楓) 有
[KW],挽歌,作者:穂積皇子,但馬皇女,初瀬,名張,地名
204[題詞]弓削皇子薨時置始東人<作>歌一首[并短歌][原文]安見知之 吾王 高光 日之皇子 久堅乃 天宮尓 神随 神等座者 其乎霜 文尓恐美 晝波毛 日之盡 夜羽毛 夜之盡 臥居雖嘆 飽不足香裳
[訓読]やすみしし 我が大君 高照らす 日の禦子 ひさかたの 天つ宮に 神ながら 神といませば そこをしも あやに畏み 晝はも 日のことごと 夜はも 夜のことごと 伏し居嘆けど 飽き足らぬかも
[仮名],やすみしし,わがおほきみ,たかてらす,ひのみこ,ひさかたの,あまつみやに,かむながら,かみといませば,そこをしも,あやにかしこみ,ひるはも,ひのことごと,よるはも,よのことごと,ふしゐなげけど,あきたらぬかも
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:置始東人,弓削皇子,殯宮,枕詞
205[題詞](弓削皇子薨時置始東人<作>歌一首[并短歌])反歌一首[原文]王者 神西座者 天雲之 五百重之下尓 隠賜奴
[訓読]大君は神にしませば天雲の五百重が下に隠りたまひぬ
[仮名],おほきみは,かみにしませば,あまくもの,いほへがしたに,かくりたまひぬ
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:置始東人,弓削皇子,殯宮,現人神
206[題詞](弓削皇子薨時置始東人<作>歌一首[并短歌])又短歌一首[原文]神樂<浪>之 志賀左射禮浪 敷布尓 常丹跡君之 所念有計類
[訓読]楽浪の志賀さざれ波しくしくに常にと君が思ほせりける
[仮名],ささなみの,しがさざれなみ,しくしくに,つねにときみが,おもほせりける
[左注]
[校異]波
浪 [金][紀][KW],挽歌,作者:置始東人,弓削皇子,殯宮,異伝,序詞
207[題詞]柿本朝臣人麻呂妻死之後泣血哀慟作歌二首[并短歌][原文]天飛也 軽路者 吾妹兒之 裡尓思有者 懃 欲見騰 不已行者 入目乎多見 真根久徃者 人應知見 狹根葛 後毛将相等 大船之 思憑而 玉蜻 磐垣淵之 隠耳 戀管在尓 度日乃 晩去之如 照月乃 雲隠如 奧津藻之 名延之妹者 黃葉乃 過伊去等 玉梓之 使之言者 梓弓 聲尓聞而 [一雲 聲耳聞而] 将言為便 世武為便不知尓 聲耳乎 聞而有不得者 吾戀 千重之一隔毛 遣悶流 情毛有八等 吾妹子之 不止出見之 軽市尓 吾立聞者 玉手次 畝火乃山尓 喧鳥之 音母不所聞 玉桙 道行人毛 獨谷 似之不去者 為便乎無見 妹之名喚而 袖曽振鶴 [一雲 名耳聞而有不得者]
[訓読]天飛ぶや 軽の道は 我妹子が 裡にしあれば ねもころに 見まく欲しけど やまず行かば 人目を多み 數多く行かば 人知りぬべみ さね葛 後も逢はむと 大船の 思ひ頼みて 玉かぎる 岩垣淵の 隠りのみ 戀ひつつあるに 渡る日の 暮れぬるがごと 照る月の 雲隠るごと 沖つ藻の 靡きし妹は 黃葉の 過ぎて去にきと 玉梓の 使の言へば 梓弓 音に聞きて [一雲 音のみ聞きて] 言はむすべ 為むすべ知らに 音のみを 聞きてありえねば 我が戀ふる 千重の一重も 慰もる 心もありやと 我妹子が やまず出で見し 軽の市に 我が立ち聞けば 玉たすき 畝傍の山に 鳴く鳥の 聲も聞こえず 玉桙の 道行く人も ひとりだに 似てし行かねば すべをなみ 妹が名呼びて 袖ぞ振りつる [一雲 名のみを聞きてありえねば]
[仮名],あまとぶや,かるのみちは,わぎもこが,さとにしあれば,ねもころに,みまくほしけど,やまずゆかば,ひとめをおほみ,まねくゆかば,ひとしりぬべみ,さねかづら,のちもあはむと,おほぶねの,おもひたのみて,たまかぎる,いはかきふちの,こもりのみ,こひつつあるに,わたるひの,くれぬるがごと,てるつきの,くもがくるごと,おきつもの,なびきしいもは,もみちばの,すぎていにきと,たまづさの,つかひのいへば,あづさゆみ,おとにききて,[おとのみききて],いはむすべ,せむすべしらに,おとのみを,ききてありえねば,あがこふる,ちへのひとへも,なぐさもる,こころもありやと,わぎもこが,やまずいでみし,かるのいちに,わがたちきけば,たまたすき,うねびのやまに,なくとりの,こゑもきこえず,たまほこの,みちゆくひとも,ひとりだに,にてしゆかねば,すべをなみ,いもがなよびて,そでぞふりつる,[なのみをききてありえねば]
[左注]
[校異]
[KW],挽歌,作者:柿本人麻呂,妻,隠り妻,亡妻挽歌,枕詞
208[題詞](柿本朝臣人麻呂妻死之後泣血哀慟作歌二首[并短歌])短歌二首